今でも、あの時の光景が忘れられない。
7年たった今でも、あの瞬間の背筋が凍る感じは、はっきり覚えている。
ただいまも言わずに、靴も脱がずに、玄関で固まった。
家の中が…おかしい。
いや、正確には「空っぽ」だった。
リビングに入ると、子供のおもちゃ箱もない。嫁の化粧台も、全部、きれいに消えてる。ただ、家族の思い出の品だけは残されていた。
え…え?
「え、ドラマかよ。」
一瞬で血の気が引いた。
背中に冷や汗が流れるのが、自分でもわかった。
これは…ガチなやつだ。
電話をかけても、一切出ない。
LINEも既読にならない。
胃のあたりがギュッと締まってくる。
リビングの机の上に、封筒と銀行の家族口座のキャッシュカードが置いてある。
手紙を開けると、手書きの文字でこう書かれていた。
もう耐えられません。
離婚をしたいので家を出ます。
生活費はこの口座に振り込んでください。
今後、必要なやりとりは書面でお願いします。
でも——
本当に当時の僕には思い当たる節が、まったくなかった。
喧嘩は多かったとおもうが、ここ最近はうまくやれているとおもっていた。
家事も育児も、できる範囲で協力してきたつもりだった。
でもその時の僕に、そんなことを考えている余裕はなかった。
俺はすぐに靴を履き直し、俺は新幹線に飛び乗っていた。
たぶん人生で一番、心臓がバクバクしてた。
それが、僕の「離婚物語」の始まりでした。
まさか自分の人生が、こんな展開を迎えるとは思ってもなかったよ、本当に。
次回、「嫁の実家で僕を待っていたモノとは?」——に、続く。